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彼と彼女と印度料理と.... ヒストリー/思い出 ヒストリー/思い出

■彼と彼女と印度料理と....■ アップルユーザーグループ「NewtonJapan」の、1998年関東忘年会会場のインド料理屋さんで、当時その参加者にビームだけで配られたNewtonBookに掲載された文章です。
渋谷から伊豆へそして青山へと、1年の歳月が既に二人を恋人と呼びあえる関係にしていた。Basukeとあつこは、仲間との忘年会場に向かうがまだ誰も来ていない....。
作者は、待つことにした二人の会話を通して、ディスコンになったNewton MessagePadへのいろんな人の思いを読者に伝えようとしています。

ご要望により全文を掲載しました、どうぞお楽しみください。

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「もう一年も経つのね....。」

去年の忘年会で衝撃的に出会い、初夏の伊豆旅行でまた偶然出会った二人は、1998年も終わりに近づいてきたこの時期、本格的な恋人と呼べる関係にいた。
今日は、青山の印度料理屋に、無謀にも原付のオートバイに二人乗りをしながら、今年の忘年会に参加するためにやって来たのだった。
無事、警察のお世話にもならず、早めに到着してしまったため、店にはまだ2人りきりだった。

「俺達も変わっているよな。」

タコ帽子が答えた。すでにに呑み始めていた。

「お互い新しい出会いは沢山有ったのに、そこにはなんの魅力も感じないで、づっと一つのことを思いつづけることが出来るなんて、絶対変わっているわよ。」

あつこ(仮名24歳)が答えた。すでに食べ始めていた。

「俺達、このまま時代に取り残されても、そのまま好きでいられるのかな?」

「先を歩いていた分、変な受け止め方されていたけど、こうなってやっと正しく受け止められたのかも知れない。」

「しょせん、カップルの真似は真似事で、真実の愛には勝てないってことか....。」

「そう、でもできれば、同じ中身でも新しい外見、そう、あと10歳は若返ったような気分になりたい。そうすれば、あの彼女のように、もう一度華やかな世界に戻れるかもしれないわ。」

「あっこは、外見だけを繕って、本質を捨ててでも戻りたいっていうのか?」

「そんなことはないわ、私は今のあなたのままで何の不満も無いもの。」

「じゃあ、何が気になるんだ。再会したときから二人の間は何も変わりはないんだぞ。」

「でも、あつこはあなたと付き合うことで、世間からはどんどん離れていってしまう気持ちを、時々どうしても拭うことができなくなるのよ。」

「....だから、それが嫌だと言うのか?」

「違うわ、嫌ということではなくて....やはり不安なのよ!」

タコ帽子は、あつこ(仮名24歳)をそばに引き寄せた。

「大丈夫、俺がいる、俺はいつでも君のそばにいるよ。」

「それは解っている、解っているわ。でも、でも、ひとりでは....。」

そのとき、どこからともなくエレキベースのチョッパーの音が響いてきた。

「ずびずびずび」

段々大きく響いてくる。良く聴くとベースに声もダビングされている。

「ずびずびずび、おれもいるぞ」

額に@マークをつけた細い男がエレキベースをかかえ、まるで街の流しの演歌師のように、

「おれもいるぞ〜」

と歌っている。

すると反対側からも声が聞こえてきた。

「なんやねん、わてもおるではないかーぁ。なんやねん、わてもおるではないかーぁ。」

ボケと突込みを一人でやりながら、地方から我体の良い男も近づいてきた。

「あー、あー」

気がつくと正面遠方から、やけにエコーの効いた声もわんわんと響いてきていた。

「あー、あー、やってまいりました、結婚しましたが、あー、あー、私もおりますでございます。」

酔っ払ったテンションの高まった風情で、男がマイク片手にエコーギンギンに司会をしている。

「はい、これ欲しい人、手を上げて!!、これはめったにお目にかかれません、私もおりますでございます。」

新婚というタスキが肩からかかっていた。

後ろからも誰かが来る、振りかえると暗闇にメガネが光る。始めは標準語に聞こえていた言葉が、段々早口の関西弁に変わり、小柄な赤い顔をした男が、機関銃のようにまくし立てる。

「おこるでーもー、でもわてもおるでー不滅やでー。」

そこしか、判別不可能だった、誰かを叩いてもいるようだ。

暗闇から、静かにぬっと現れた男もいた。

「俺は辛いものが嫌いだ!、生物しか食べんぞ!、スーツしか着ないぞ!、でも、おれもいるぞ。」

スーツ姿の背の高い男も、落ち着いた中に絶対的な主張を込めて発言していた。年齢を、年齢を感じさせる重い言葉だ。

「まじんごー、まじんごー、まじんがーぜっと」

手に超合金塊をもって、やはりアニメソングだが珍しく歌いながら現れた男も居た。

「イタリヤワインも最近良いですね。....僕もいますし、つい、いろいろやってしまうんです。」

大勢の人々に囲まれているのに二人は気がついた。人の好いおじさん風、いかにも受験生風、変な外国人、とにかくいろんな人がいた。みんな勝手なことを言っているが、聞こえてくる言葉は、意味は、同じだった。

「つまり....自分が、自分自身がいれば大丈夫だということさ。」

タコ帽子が言った。すでに呑み物をおかわりしていた。

「そうよね、私達が、好きで思い続けることが、大切なのよね。」

あつこ(仮名24歳)も、そう答えた。すでに一皿目はたいらげていた。

あつこはとても嬉しくなった。自分たちが取り残された気がして、どんどん新しいものに変わっていくことを、変に拒んではいるんじゃないかと言う不安は、全然違うことだと気がついた。
好きで付き合っている。もちろん嫌いになったら別な男を探せばいい、ただそれだけのこと、、、、。
でも、まだまだ付き合って行くつもりだし、それは多分、これからも長い付き合いになるんだと思う。

「俺達もいるぞ」と言ってくれている大勢の仲間が、私達を見守ってくれているのだということも、改めて気がついた。....もちろんみんなだって先はわからないけど、今はとっても楽しいんだと、嬉しいんだと思う。

「やっぱりあなたが好き。」

すでに集まったみんなに囲まれ、皿を引き寄せながら、あつこ(仮名24歳)はタコ帽子に抱きついた。

「おれもさ!」

負けずにタコ帽子も、新しいグラス片手に、抱いた手にぐっと力を込めた。


その時"べきっ"と音がした....。


....Newton MP2100の蓋のジョイント部分が折れた。


それでも二人は祝福の拍手の中、離れようとしなかった。
1998年も終わりの、彼と彼女と印度料理とNewtonと....。

Long Live Newton MessagePad !


【カレトカノジョトインドリョウリト】


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2002/5/23更新
2002/3/12 登録
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